最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)202号 判決 1948年7月14日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人永田菊四郎、小淵方輔上告趣意書第一點は、「原判決ハ「被告人ハ孰レモ飲用ニ供スル目的ヲ以テ犯意繼續ノ上、第一昭和二十一年一月二十九日頃ヨリ同年八月四日頃迄ノ間……メタノール約八升乃至五升ヲ……所持シ、第二(一)同年七月三十日頃……自己ノ所持セル前記メタノールノ内約二合五勺ヲ譲渡シ、(二)同年八年一日頃……自己ノ所持セル前掲メタノールノ内約四合ヲ譲渡シ」ト判示シ、以テ被告人ガメタノールナルコトヲ認識シテ飲用ニ供スル目的デ所持シ且ツ譲渡シタコトヲ認定シタ。然ルニ此事ニ付テノ證據ハ一ツモ擧ゲテナイ。證據ノ部分ニハ、唯ダ「被告人ノ當公廷ニ於ケル被告人ガ所持又ハ譲渡シタル液體ガメタノールナルコトヲ認識シタル點ヲ除キ判示ト同趣旨ノ供述」トアルノミデアル。後述ノ通リ、被告人ノ豫審第一回訊問調書及ビ横山末藏ノ豫審訊問調書ハ引用シテイルケレドモ、コレハメタノールニ關スルノデハナク、メチールニ關スルモノデアッテ、而カモ被告人ノ右豫審調書ニハ真実ニ合セザル點ガアルノデアル。且ツ被告人ノ右豫審調書ノ第二九問答ニ依レバ被告人ハメタノールトメチルアルコールトガ同一ノモノデアルコトハ知ラナカッタノデアル。「鑑定人下村功ノ供述トシテメチルアルコールトメタノールトハ同ジモノナル旨ノ記載」トアルモ、コレハ客観的ニ両者ガ同一ナルコトヲ證明スルダケデ、被告人ニ於テ右液體ガメタノールデアッタコト乃至メタノールトメチルアルコールトガ同一デアルコトヲ認識シテイタトイウ證據ニハナラナイ。然ラバ、原判決ニハ此點ニ於テ證據ニ據ラズシテ罪ヲ斷ジタルノ違法ガアル。」と云うのであるが、
「メチルアルコール」であることを知って之を飲用に供する目的で所持し又は譲渡した以上は、假令「メチルアルコール」が法律上その所持又は譲渡を禁ぜられている「メタノール」と同一のものであることを知らなかったとしても、それは單なる法律の不知に過ぎないのであって、犯罪構成に必要な事実の認識に何等缺くるところがないから、犯意があったものと認むるに妨げない。而して本件にあっては被告人が法律に謂う「メタノール」即ち「メチルアルコール」を「メチルアルコール」と知って之を飲用の目的で所持し且つその一部を譲渡したと云う原判決認定の事実は、原判決擧示の證據によって優に證明されるから、被告人の犯意を證據によらずして認定したと云う非難は當らない。論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する)
以上の理由によって、刑事訴訟法第四百四十六條により主文の通り判決する。
この判決は、裁判官全員の一致した意見によるものである。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 庄野理一 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎)